蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・17

「とは言ったものの……」
 リリザへの街道を歩きながら、ロランはやるせない気持ちで暮れていく空を眺めた。
「またローレシアまで、何日も歩くのか……」
 歩くことはつらくはない。ロランを憂鬱にさせるのは、行って、また無駄足になることだ。
(今日はリリザで休むか)
 サマルトリア城から南下して、2日目。町に着くころには日が暮れていた。並の旅人より驚異的に速くロランはたどり着いていたが、自分ではその成長に気づくこともなく、くたびれた気持ちで宿屋を探した。
 今夜はどこも満室だとかで、行く先々で断られた。これは教会の軒先を借りるしかないかと、ロランが途方に暮れた時である。
 とある宿屋の前で、親子がひそひそ話をしていた。
「ねえ、お父さん、そろそろあのお客さんに……」
「いや、しかしなあ……。どこぞのやんごとなきお方だったら、無礼打ちに遭いかねんぞ。あのおそろしげな棍棒で」
「だって、もう3日も滞在してるのに、宿泊費を払ってくれないなんて。心配だわ。本人はあとで家に請求書を送るのかもしれないけど、でもそうじゃなかったらどうするのよ。どこかのどら息子だったら!」
「お前、口をつつしみなさい」
「それに、あんなのんきな顔した男の子が、無礼打ちなんてするかしら」
「それは、人は見かけによらないから……」
 なんだか聞き捨てならず、ロランは思わず近づいていた。見れば、二人は以前世話になった宿屋の親子だった。
「あ……いらっしゃいませ。しかしあいにくですが、今夜は満室で……」
 振り返った父親が、ロランを見て覚えのある顔をした。ロランは尋ねた。
「あ、いえ……変わったお客を泊めてるんだなと思って、気になって」
「そうなんです、困ってるんですよぉ」
 助け船を出されたように、娘が食いついてきた。
「一人旅をしてるって言ってたけど、なんだかふわふわした男の子なんです。人に頼み事するのがうまくって、なんだかあたし、お城の小間使いになった気分でしたわ。つい、頼まれもしないお茶とかケーキを運んでいったりして。そうしたらまた、あの子優雅に笑うのよねぇ」
「お前、そんなことしてたのか。だから出費が……」
「だってしょうがないじゃない! 不思議な子なんだってば」
 ロランの心臓が痛いほど昂ぶった。親子が口げんかになる前に割り込んで頼む。
「すいません、会わせてくれませんか、彼に。僕の……友達かもしれないんです!」

  店の主人に案内され、ロランは宿屋の1階奥へと進んだ。長靴の底が木の床を踏むごつごつとした音が耳にうるさい。それほど、ロランは緊張していた。
「ここです。――お客さん、すいません。会いたい方がいるとかで」
「ああ、どうぞ。入ってください」
 おっとりした声が応えた。
 間違いない。ロランは固唾をのむ。主人が扉を開けると、窓際に据えたテーブルでお茶をたしなんでいた少年が、こちらを振り返った。
 ロランを見て、ばたんと椅子が倒れる。少年は立ち上がり、満面の笑みで叫んでいた。声変わりもまだのような、高い声で。
「ロラン!」
「ランド!」
 二人は駆け寄っていた。主人がほっとしたように吐息をつき、そっと扉を閉める。これで宿代は大丈夫だろう。
「あははっ、久しぶり、久しぶり! いやー、探しましたよ!」
 ランドはロランの両手を取って、上下にぶんぶんと振った。
「10年ぶりですね! 全然変わってないかな……いや、背が高くなったし、体つきもがっちりして……」
 ロランが黙っているので、ランドは不思議そうな顔をした。
「……ロラン?」
 ロランは口を曲げて目を伏せていた。ロラン、とランドが心配そうにのぞきこむ。
「……敬語はよせよ。初めて会ったわけじゃないんだ」
「……うん。そうだね」
 ぶっきらぼうにロランが返すと、ランドは照れたように笑い、ずっと握ったままだった手を離そうとした。ロランはランドの左手を、右手で素早く捕まえた。びっくりしたようにランドが見つめてくる。
「大変だったんだぞ、捜すの。どうしてじっとしてなかったんだ」
 にらみつけると、ランドはふんわりと笑った。
「そりゃ、早く君に会いたかったからさ」
 こちらを見つめるランドのまなざしに、嘘はなかった。本当にそれだけの気持ちで、彼は動いていたのだ。
 ――さんざん振り回されてしまったが。
「……ばか」
 目頭が熱くなり、ロランは急いでこぼれそうなそれをこらえた。別の意味で怒りたい気持ちが、手を握る力を強くさせる。言いたいことは山ほどあったが、喉につかえて出てこない。ようやく、これだけ言えた。
「……もう、どこかへ行くなよ」
 ランドはしばらくロランを見つめていたが、やがてにっこり笑った。

「うん、わかった」