蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・14

 急ぎ足で洞窟を出ると、ロランは空を見上げ、苦い顔をした。今の気持ちを代弁するように、木々の隙間から覗く空は曇っている。
「やっぱり、使うしかないのか……」
 背中の荷物を降ろし、道具袋からキメラの翼を取り出したロランは、重くため息をついた。金色の針金を曲げて白い羽根を付け、翼の形にした道具は、一見するとただの飾りに見える。行きたい場所を念じて空に放り上げれば一瞬で飛べるのだと、サマルトリアの道具屋の主人から使い方を聞いてはいた。
「どうしよう、でも、ここに来るまで何日もかかってるしなあ」
 また往復すると、さらにすれ違いかねない。ランドがここまでの道のりですれ違わなかったということは、彼はここでキメラの翼を使った可能性が高かった。洞窟へ至る道は1本しかないからである。
 今すぐローレシアに戻れば、ランドがそこにいるかもしれない。ロランはついに決心した。
 荷物を背負い直し、キメラの翼を手にする。
「えーと、ローレシアの城を頭に浮かべて……」
 いざとなるとぐずぐずしてしまう。魔法が発動したら自分はどうなってしまうのか、それだけが心配だ。初めて海に飛び込む人のようにロランは何度も深呼吸し、えいっとばかりにキメラの翼を放り上げた。
 ……が。
「あ、あれ?!」
 羽根は何もなかったように地面に落ち、ロランはその場にとどまったままだった。
「ど、どうして……?」
 羽根を拾い、ロランはおろおろした。嫌な汗がどっと湧いてくる。やっぱり魔法力のひとかけらもない自分には使えないのか。
 ロランが途方に暮れかけた時、洞窟から守り人の男が出てきて、驚いた顔をした。
「なにやってんだ、あんた?」
「あ、あの……」
 ロランは困ってしまい、事情を説明した。男は豪快に笑った。
「そりゃあんた、そんなにびくびくしてるからだよ。魔法は、こう、」
 男は両手を左右から重ねてみせた。
「気持ちと道具の魔力が合致した瞬間発動するのさ。あんたが怖がって、本当はしたくないって気持ちがあったから、魔法は出なかったんだよ」
 男は、今度は両手を左右すれ違わせてみせた。これが今のロランの状態らしい。
「あなたも魔法が使えるのですか?」
「いや、俺はからっきしさ。だから、あんたの気持ちもわかるよ。俺も最初は、キメラの翼使うの怖かったしな。でも人間、慣れだよ」
「はあ……」
「いいかい、こうやって」
 男は少し身をかがめ、ぴょんとその場で跳んだ。
「この跳ぶ動作で、次の瞬間行きたい町に行けると、まず思うこと。行きたいって気持ちと、頭ン中に描いた町がぴったり合わされば、魔法は発動する。大丈夫、一瞬さ。気がついたらもう飛んで着いてるからよ」
「は、はいっ」
 少し恥ずかしかったが、ロランは言われたとおりにやってみることにした。
 男が見守る中、キメラの翼を放り上げると同時に跳ぶ。ローレシアに行きたい、と強く思った一瞬。
「――っ?!」
 ふっと何かが心に合わさった気がした。その瞬間、体がぐんと上へ引っぱられる。まるで天から見えない大きな手がロランをそっとつまみ、持ち上げたようだった。
「おお、やったじゃねえか!」
 ロランの姿が消え、残された男が、空に向かって豪快に笑った。


「うわ!」
 少し酔ったような感覚とともに、ロランは地面に降り立った。落ちるかと思っていたが、まるで自然に足が地に着いていた。投げたキメラの翼は、と地面を探したが、見つからない。使うと壊れるのだろう。
 初めての魔法に、ロランは呆然とあたりを眺めていた。そして、立っている石畳の感触と、見慣れた町の風景に、ここがローレシア城下町の入り口だと気づく。
「ちゃんと入り口で降りられるのか。そうだよな……いきなり町の中とかに出たら、びっくりするもんな。でも便利だな……」
 気を取り直して、ロランは我が家である城へと向かった。
 衛兵はロランの姿を見て、無事を喜ぶとともに、ひどく驚いてもいた。王子がまさか、こんなに早く戻ってくるとは思いもしなかったのだろう。
 ここはロランの家なのだから、いつ帰ってもいいのだが、彼らはロランが決死のハーゴン討伐の旅に出たと思いこんでいたので、少し不意を突かれたようである。
「父上、ただいま戻りました」
「おお、ロラン。よくぞ無事で帰ってきたな」
 謁見の間で玉座に座る父に、ロランはひざまずいてあいさつをした。父のそばにはマルモアとシルクスもいる。
「王子、少し見ない間に、ずいぶんたくましくなられて。顔つきがだいぶ変わりましたぞ」
 マルモアが感慨深げに言うと、ロランは苦笑した。
「やつれただけじゃないかな」
「それより、ロラン。お前が一人でここに来たということは、ランド王子とは会っておらんのではないか?」
 父が言うと、ロランはぎょっとした。
「まさか……ランドは、もう?」
「うむ。お前がここにいないと知って、すぐにここを発たれた。ならばサマルトリアで待っていると言ってな」
 ロランは目を丸くして、気の抜けたような吐息をもらした。腰から下の力が抜け、思わずへたりこんでしまう。シルクスが慌ててロランを支えた。
「ごめん、シルクス……なんだか、気が緩んで……」
「いいえ、王子もひどくお疲れのようで……。少し休んで行かれては」
「いや、早くランドに会いに行かなきゃ。もう行くよ」
 よろめきながら立ち上がるロランに、父も引き止めた。
「まあ、そう焦るでない。ランド王子があちらで待つと言ったのなら、もうすれ違うこともないであろう。……それより、久しぶりに帰ってきたのだ。食事をしてゆかぬか。ランド王子が、珍しいキノコを土産にくれたのでな」