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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・12

 アリシアはああ言っていたが、ランドはそこまで愚かではないし、弱い人間でもない。もちろんそれは、家族であるアリシアサマルトリア王がよく知っていることだ。
 ただ城の人間は、ここ一番でランドを信用しきれていない風はあった。本当に彼に任せていいのかと、どこか頼りない印象が付きまとっているからである。
 ロランもランドのことは理解しているつもりだ。だが、アリシアの予想も当たっているような気がする。ランドは好奇心が旺盛なのだ。
(本当にドラキーに追いかけられていたらどうしよう……)
 ランドも剣の訓練を積んでいるはずだが、穏やかな彼が剣を振るって魔物を退治するなど、想像できなかった。
 道具屋でキメラの翼を二つほど買い求めると、ロランは足早に城下町を出て、東へ向かって歩き出した。ランドは3日前に出たと言ったが、自分の足なら追いつけるだろう。
 早くランドに会いたい気持ちが、さらにロランの足を速めていた。

 

 そして彼は、本当にドラキーに追いかけられていた。
「うわああ、だめだよ、これはあげられないったら!」
 真っ黒い丸い体に、大きな翼、2本の触覚、長い尻尾。スライムに似た無表情の丸い瞳の下には真っ赤な口が笑っていて、その牙は思いのほか鋭い。コウモリが魔物化した、ドラキーだ。
 どうやらランドが探し当てた珍しいキノコの芳香に誘われたらしく、ランドが銅の剣を振り回して追い払おうとしても、しつこくつきまとってくる。
「もしかして、キノコごとぼくを食べたらおいしいと思ってるのかい?」
 キィキィと鳴いて翼をばたつかせるドラキーに問いかけても仕方がない。ランドはとにかく逃げることにした。
 魔物とはいえ、何かを傷つけることは好きじゃなかった。命を狙われている緊急事態にもかかわらず、喜んで立ち向かいたい気にはなれなかったのである。
 ランドは息を切らせて走った。方角だけは間違えないよう、しっかり東に進路を取って。
 だがドラキーは久々の獲物を逃がす気はないらしく、ランドが疲れて速度が落ちたところで、前に回り込んだ。
「うわぁ!」
 急にドラキーの笑顔が真ん前に来て、ランドは驚いて木の根につまずいた。右手に持っていた銅の剣がすっぽ抜ける。
「……」
 転んだ拍子に武器を手放してしまい、ランドは頭を両手でかばって地面に這いつくばっていた。だが、いくら待ってもドラキーは襲ってこない。
「……あれ?」
 おそるおそる顔を上げると、ドラキーは目の前にいなかった。いったいどこに。ランドが辺りを見回すと、そいつは真正面に釘付けになっていて、ぎょっとした。
「……ああ、かわいそうに」
 近づいて、ランドは顔をしかめる。ドラキーは偶然にも、ランドの手から飛んだ銅の剣に真正面から串刺しになっていた。剣はドラキーの口から背へ抜け、太い木の幹に突き刺さっている。もはや息はなかった。
 ランドは小さく祈りの仕草をすると、剣を抜きにかかった。
「ふんぬっ!」
 だが、剣は固く締まった幹に食いこみ、なかなか抜けない。顔を赤くしてうなっていると、あろうことか剣はまっぷたつに折れ、ランドは勢いよく後ろに倒れこんだ。半分だけになった剣を情けなさそうに見やる。
 その時、魔物の体は黒い煙となってかき消えた。この世にいる間は血も肉もあるが、命を絶たれるとその痕跡を残さないのである。
 しかしドラキーは、自分がいた証を残すように、いくばくかのゴールドと何かを落とした。ランドは半分になった剣を置いて立ち上がると、ゴールドを拾い集め、ドラキーが落としたものを拾い上げた。
「これは……棍棒か」
 棘をいくつも彫りつけ、振るいやすいよう握り手を付けた樫の木の武器である。結構な重さのぶっそうな武器だが、ランドでも振るうことはできた。
「よかった~。おまえ、待ってなよ」
 ランドが話しかけたのは、まだ剣の残りが刺さる木に向かってだった。棍棒で刃の半ばを上から叩いてゆくと、刃は斜めにかしぎ、やがてぽろりと抜け落ちた。
「痛かったろう、おまえ。ごめんな」
 ランドは優しく、傷ついた幹に手のひらを当てた。手から放たれた青く淡い光が幹の傷口を包みこむ。
「これ、もらって行くよ」
 折れた銅の剣の代わりに棍棒を携え、ランドはいなくなったドラキーに語りかけると、その場を後にした。思わぬとばっちりで傷ついた幹の傷口からは、新芽が初々しい葉を広げていた。