蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・5

【勇者ロトの末裔】

 薄暗いその部屋には、いくつもの肖像画が飾られていた。初代から今日に至るまでの、歴代王家の者達である。その中でも最も大きな一枚の前に、ロランは父王と共に立っていた。
 金の額縁に、立ち姿の青年が一人描かれていた。赤い角と房飾りの付いた紺色の兜に、そろいの軽鎧、鮮やかな橙色のマント、白い手袋と長靴。左手に小さめの丸い盾を持ち、右手には丸い護拳の付いた鋼の剣を抜いて立っている。
 黒い眉は濃く、同じく黒い瞳は自信に満ち溢れている。この凛々しい若武者が、初代ローレシア1世だった。

「いつ見ても、ほれぼれするのう」
 傍らに立つ父王は、ロランと同じ思いを口にした。
「わしが小さいころ、お会いしたおじい様はさすがに老け込んでおられたが、この絵と同じく、瞳はとても若々しかった。あの方が今も生きておられたら……ひ孫であるお前に、どのような助言を下されたのか、教えを乞いたい気持ちだ」
「ひいおじい様は、たった一人で竜王を倒したんですよね」
「うむ」
 ロランのつぶやきに、王は誇らしげにうなずく。その物語は、この青年の直系の子孫である彼らが、生まれた時から幾度となく聞かされた実話だった。

 昔。ここより遠く北西にある大陸、アレフガルドの地に巨悪がはびこった。
 その名は竜王。名の通り邪悪な竜の化身で、アレフガルドの首都ラダトームの城から、神より下された平和の象徴たる至宝・光の玉を奪い、当時世を治めていたラルス16世の愛娘、ローラ姫をもさらっていった。
 ラルス16世はこれに対抗すべく兵を集め、勇士を募り、ローラ奪還と竜王討伐に乗り出したが、強大な魔物の軍勢に多くの命が散って行った。
 破壊と死をもたらさんとする竜王の前に、人類はなすすべなく思われた。その時、一人の若者がラルス16世の前に謁見を申し出たのである。
 それが、この若者――ローレシア1世であった。
 彼がどこから来たのか、誰も知らない。しかし彼は、自分は伝説の勇者ロトの血を引いている者だと名乗った。
 勇者ロト。その名は、アレフガルド――ひいてはこの世界において、はかり知れない意味を持つ。
 竜王からさらにさかのぼること1600年以上前、この世界は闇に覆われていた。人間の絶望を糧とする大魔王が君臨していたためといわれる。
 しかし、いずこかからやってきた勇者がこれを討ち、世界に再び朝をもたらした。彼の本当の名は語り継がれていない。ただ、この世界に古くから伝わる、真の勇者の称号――『ロト』の名は、彼の功績と共に今も伝説となっている。
 大魔王を倒した勇者の足跡は全くの謎に包まれている。一説では、世界に朝が訪れたその日に、いずこかへ去っていたという。
 人々は長く希望の象徴としてロトの名を語り伝えた。そして竜王によって大地が危機に覆われたその時代、また光の使者たるロトが現れ、救ってくれまいかと祈りに似た気持ちでいた。
 彼が出現したのは、折しもその瞬間であった。
 あまりに古い伝説のゆえ、かたりも多かった中で、彼は多くを語らず、行動でそれを証明して見せた。類まれな剣技と魔法を操って次々と各地の魔物を撃破し、囚われていたローラも救出。
 アレフガルドの各地にいた賢者達を訪ねて竜王の島に渡るすべをもらい、単身、魔の島へと乗り込んだ。
 時の彼方に忘れ去られていた、伝説の勇者ロトが残した武具も探し出し、選ばれし者のみが身に着けられるそれをもって、激闘の末竜王を倒したという。
 その後、王位を譲ろうとしたラルス16世の頼みを断り、「自分に納めるべき国があるのなら、それは自らの手で探したい」と言い残して、恋仲になったローラと共に新天地をめざし、アレフガルドを旅立った。
 そして長い年月をかけて、アレフガルドの南東と東方に位置する大陸二つを治めるに至り、国王ローレシア1世を名乗った。ローレシアの由来は、愛妻ローラの名前から取ったものだ。彼にはそれまで、名字がなかった。むろん本名もあるが、今ではローレシア1世の名で通っている。
 そしてローラともうけた3人の子どもたちに、広大な土地をロト三国として分け与えた。
 長男には、現在のローレシアを。次男には、ローレシア大陸の西方を与えてサマルトリア国とし、サマルトリア南の海峡を隔てた大陸の半分は、長女にムーンブルク国として治めさせた。

 現ローレシア国王はローレシア1世の直系で、3代目に当たる。同じく血を分けたムーンブルクサマルトリア王もそれぞれ同じ世代で、三王は従兄弟同士だ。
 ローレシア3世ローレンスの息子ロランと、サマルトリア2世フォルストの長子ランド、故ムーンブルク2世ヒンメルの長女ルナは、再従兄弟(またいとこ)に当たる。
 ロトの国建国からおよそ100年。血のつながりは、まだ近いところにあった。


「ご先祖様になんと申し開きをしてよいか」
 王は、痛ましげに眉を寄せた。
「初代がもたらした平和から、わずか100年だ。いや、正確には十数年前から邪教の侵攻は始まっていた。あまりに短い平和であった……」
「父上のせいじゃありません」
「うむ……わかってはおる。だが、わしにもロトの血が流れておる。もっと早く悪の根を断つことができたのではと、己を責めずにはいられないのだ」
 父は息子の肩を抱いた。
「初代がロトの名のもとに国を築き上げたのは、全て平和のためだ。初代は決して、功名や欲望のために王となったのではない。自分の血と背負う名が、のちの世の人々の希望になればとお考えになってのことだ。
 人々はそれに賛同し、自ずと集まって国となった。しかし、王家を名乗って平和になったのちも、初代は3人の子どもたちに戦い方を教えたという。妻であるローラも、それに反対しなかったそうだ。
 おばあ様も理解なさっておいでだったろう。ロトの血を引く者は、民の危機に真っ先に立ち上がり、戦うべき役目を背負っているからだ、と」
 ロランは初代の隣に同じ大きさで並ぶ立ち姿の肖像を見た。淡い金色のドレスを身にまとい、白い手袋に覆われた両手をつつましく前で重ねている。夜明けのように赤みがかった金の巻き毛を背に、澄んだ青い瞳の清楚な美貌がこちらを見つめていた。
 ローレシア建国に至るまでの艱難辛苦を共にし、初代と添い遂げた、時のラダトーム王ラルス16世の一人娘、ローラの若き姿である。